▼カルマとは、「結果を伴う行為」という意味から「過去の行為は、良いものでも悪いものでも、いずれ自分に返ってくる」という因果応報の意味になっていったという。カルマは漢字では「業」と書く。
▼昨年4月に施行された改正資金決済法では、仮想通貨交換業を行う事業者に対して、内閣総理大臣の登録が義務づけられた。急速な成長を続ける仮想通貨業界に規制の網をかけた形だ。この規制により登録業者とみなし業者が生まれ、新規参入業者は金融庁による審査待ちの行列に並ぶことになった。
▼行政法学上、登録は公証という行政行為に分類され、その可否について原則裁量の余地がない覊束行為である。一方許可は、その可否について一定の裁量がある裁量行為に当たる。金融分野において、銀行は許可制、証券会社は登録制である。
▼仮想通貨交換業は証券会社と同じ登録制だ。しかし、コインチェック事件や登録業者各社に対する行政処分を受けて、許可制にした方が良いという声が上がっている。現状、黎明期にある仮想通貨交換業を銀行並みに扱うことへの疑義もあることから、許可制に極めて近い登録審査を実施することで対応しているようだ。
▼仮想通貨の基幹技術であるブロックチェーンは改竄が困難で、安全性の高いものではなかったのか。なぜこれだけ不祥事件が発生するのか。このように考える人も少なくないのではないか。
▼カフェで机に財布を置いたまま離席したり、スリが横行する場所でバックパックのジッパーが空いたままにしたりしてお金が抜き取られた場合、現金は危険なものという評価になるだろうか。きっと不用心だとされるはずだ。
▼仮想通貨流出事件も多くの場合、仮想通貨そのものの危険というより、仮想通貨交換業者の不用心が原因となっている。コインチェック事件は、すべてのNEMをホットウォレットで管理するという、いわば机に財布を置いたままにした状態で起こった。
▼昨年10月以降、仮想通貨交換業は急速に業容を拡大した。各社勧誘広告を行い、利用者を増加させる戦略を取る一方で、それに見合った内部管理態勢を整えてこなかった。仮想通貨交換「業」各社に対する行政処分は、悔しくもカルマの因果応報を体現する形になった。
▼来年G20が大阪で開催される。仮想通貨の法規制先進国である日本が、仮想通貨業界において世界に存在感を示すチャンス、そんな思惑も見え隠れする。向こう一年の仮想通貨交換業から目が離せない。
行政書士 小川 裕史
解説
資金決済に関する法律(資金決済法)における仮想通貨業の定義
(定義)
第2条7 この法律において「仮想通貨交換業」とは、次に掲げる行為のいずれかを業として行うことをいい、「仮想通貨の交換等」とは、第一号及び第二号に掲げる行為をいう。
一 仮想通貨の売買又は他の仮想通貨との交換
二 前号に掲げる行為の媒介、取次ぎ又は代理
三 その行う前二号に掲げる行為に関して、利用者の金銭又は仮想通貨の管理をすること。
(「資金決済に関する法律」の条文より)
(2)仮想通貨交換業者(現在16社)
○ 以下のいずれかを業として行う者であって、登録を受けた者
a 仮想通貨の売買又は他の仮想通貨との交換
b 上記aの行為の媒介、取次ぎ又は代理
c 上記a・bに掲げる行為に関して、利用者の金銭又は仮想通貨の管理を行うこと
(「第1回仮想通貨交換業等に関する研究会」資料より)
「業として行うこと」について
金融庁によれば、“対公衆性”“反復継続性”の2つの要件を満たす行為とし、当該要件の適否は個別具体的に判断するとしている。
また、現在当該要件を満たす行為を行っていない場合でも、将来的に行う想定している場合も「業として行うこと」とされる点には注意が必要である。
(注1)法第2条第7項に規定する「業として行うこと」とは、「対公衆性」のある行為で「反復継続性」をもって行うことをいうものと解されるが、具体的な行為が「対公衆性」や「反復継続性」を有するものであるか否かについては、個別事例ごとに実態に即して実質的に判断するべきである。なお、「対公衆性」や「反復継続性」については、現実に「対公衆性」のある行為が反復継続して行われている場合のみならず、「対公衆性」や「反復継続性」が想定されている場合等も含まれる点に留意する。(金融庁 事務ガイドライン第三分冊:金融会社関係 16仮想通貨交換業者関係より)